横浜市は、昭和46(1971)年、全国に先駆け、市役所内に「都市デザイン」担当を設置し、「歴史を生かしたまちづくり」をはじめとした、都市デザイン活動を50年もの間進めてきた。
横浜市では、これまで積み重ねてきた50周年を機に、展覧会やシンポジウムなど様々な記念事業を通じて、50年を振り返り「個性と魅⼒あるまち横浜」に向けて時代とともに歩んできた、都市デザインの取組について、市民の皆様や企業の方々に広く知っていただくため、当時の関係者や、有識者等を招いた都市デザインを「知る」講演会を開催している。
これまでに、「都市デザインの黎明期」や「地域資源」、「みなとみらい」をテーマとして開催してきたが、第4回は『歴史を生かしたまちづくり~歴史的景観が市民生活を豊かにする~』をテーマとして令和4(2022)年3月27日(日)、午後1時30分から横浜市役所 1階 アトリウム空間 (中区本町6-50-10)開催されたので、その様子を報告する。
会場である横浜市役所アトリウムは、市庁舎の移転に伴って令和3(2021)年度から供用開始されているパブリックスペースで、3階まで吹き抜けの晴れた日にはガラス張りの天井や壁から光がそそぐ開放的な空間となっている。当日会場には、事前応募の約100名が集まった。
渡辺荘子氏(横浜市都市デザイン室)の司会で始まり、最初に堀田和宏横浜市都市整備局企画部長から「全6回の講演会を準備しており、今回が4回目に当たるが、初めて会場で直接皆さんに聞いていただく機会となった。これまで都市デザインに取り組まれてきた4名にご登壇いただき、横浜の都市デザインを勉強し、未来を考えていく機会にしたい」との挨拶があった。
講演会は2部構成となっており、前半は2名の方から基調講演、後半は登壇者全員でのパネルディスカッションとなっている。
最初に講演に立ったのは西脇俊夫氏。西村氏は大学卒業後、大高建築設計事務所等を経て昭和51(1976)年から横浜市都市デザイン室の主査となり、以降都市デザイン室長、都市企画部長、都心部整備部長を歴任。22年半にわたり「都心部や周辺部のまちづくり」「歴史を生かしたまちづくり」「市民まちづくり」等の都市デザインを実践してきた。
基調講演では、「前半25年の取組」と題し、横浜の都市デザイン行政50年の前半部分に当たる25年の取組について話し、「都市空間の質を高める価値を作っていくうえで、まず歴史を知ることが重要」とし、同時期に実施されながら、相互に調整がなされず計画されていたていた事業の調整した事例、制度改正を改定して近代建物を残した「市街地環境設計制度」などの事例について紹介。「変えない、変えたくないという意志を示さないと、変わってしまう。」「デザインとしての都市デザインとして、平面・立体・時間軸の四次元で考えていくことで、変わらない個性や変わっていく魅力の双方が生まれること、そのためには行政が鍵を握っている。」と締めくくった。今、まちづくりや都市デザインに関わる者にとってのエールであり、刺激となる内容であったと感じた。
次に基調講演に立ったのは六川勝仁氏。六川氏は馬車道商店街のまちづくりに親子二代で取り組み、馬車道商店街協同組合の理事長として、馬車道を文明開花、文化芸術のかおる魅力ある街並みに育てている。
基調講演では、馬車道商店街が行った二度の大規模なまちづくりについて触れ、「都市デザイン室が居なかったら成しえなかった」「まちの在り方についてイメージを共有して賛同者を増やしていった」「歴史的建造物の価値を知って一部だけでも残すことに努めている」と語り、都市デザイン室には「もっと大胆な提案もしてほしい」「まちづくりのプロデューサーになってほしい」と希望を述べて締め括った。
まちづくりのコンセプトに掲げていた「本物の大人の街」を実現させていく過程での涙ぐましい苦労がかなり垣間見え、妥協せずに取り組んでいくことが大事だと改めて痛感した。
後半は基調講演の2名に、西村幸夫氏、コーディネーターの米山淳一氏を加えた4名でパネルディスカッションを行った。
西村幸夫氏は、東京大学教授、東京大学副学長、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)副会長を歴任。その間、横浜市都市美対策委員、同会長にも就く。専門は都市保全計画、景観計画、歴史まちづくり、歴史的環境保全。
コーディネーターの米山淳一氏は、元公益財団法人ナショナルトラスト事務局長。公益社団法人横浜歴史資産調査会常務理事として横浜市都市デザイン室とともに「歴史を生かしたまちづくり」を推進している。また地域遺産プロデューサーとして全国各地で歴史的集落や街並み、文化的景観、近代化遺産を生かしたまちづくりに取り組んでいる。
パネルディスカッションでは、「市にとって近代建物がどれだけの価値があるのか」を評価する難しさ、市民活動の重要性、歴史ある他の街との比較、ブレないストーリーづくりと総合調整、都市デザインの郊外部への波及、について意見が交わされた。
また、市民等からは「他の街でも実現できるか」「市民を巻き込む工夫は何か」といった質問があり、代表して西村氏から「通りを解釈し直し、未来を考え、価値を見つける。時代ごとに解釈も変わるので価値になっていくこともある」「地域に愛されていたものが無くなるときにキッカケが生まれやすい。その時に媒介者と通じ、市民を巻き込みながら着地点を探していくことが大事」と回答した。
パネルディスカッションの最後に、「今後の都市デザインを進めていくうえで重要なこと」という問いに対し、西脇氏は「行政、市民、専門家、それぞれの共通の価値を共有し、仕組みや活動につなげることが大事」、六川氏は「100%の実現は厳しくても諦めずに継続すること」、西村氏は「都心部だけでなく取り残されている所も重要になるので、どこでもできること、共感づくりを大事にしてほしい。私も引き続き関与していきたい」と回答、コーディネーターの米山氏が「地道にやっていくこと、地域愛や誇りをもって取り組んでいくことで、新たな知恵が生まれてくる」締めくくった。
全体を通して、4人の登壇者は横浜市の都市デザインの取組を非常に高く評価していた。また、パネルディスカッションのなかでは都市デザイン室に激励を送る場面もあり、今後の取組にも期待を寄せていた。
都市デザイン50周年事業として、次回以降は未来を描くシンポジウム等も開催されるという。講演会でも語られていたように横浜という街は常に変化し続けている。今後どのように横浜が変わっていくのか、そこに新たな都市デザインの風がどのように吹き込まれていくのか、非常に楽しみになった。
※THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA は「横浜の都市デザイン50周年事業」の協賛パートナーです。
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