top of page
heritagetimes

[歴飯_120]MOKICHI 鎌倉(モキチ 鎌倉)

更新日:2023年1月20日



鎌倉大仏で有名な高徳院の脇を抜け藤沢方面に歩くと、藤沢鎌倉線大仏坂トンネルの手前右手、ハイキングコースの入り口付近に、背の高い窓とスクラッチタイル張り外観が美しい建物が見えてくる。旧神奈川県営湘南水道鎌倉加圧ポンプ所として神奈川県により建てられた建屋は、令和4(2022)年12月7日に「MOKICHI 鎌倉」としてプレオープンした。

旧神奈川県営湘南水道鎌倉加圧ポンプ所(昭和11(1936)年竣工)は、別荘地としての人気が高まる大磯、茅ケ崎、藤沢、鎌倉、逗子、葉山等9つの地域に地形的課題を克服し、安定的に水道水を供給するために建てられた施設である。昭和36(1961)年に廃止されるまで、25年に渡り湘南地域南部の給水を支えてきた。その後、昭和40(1965)年から鎌倉市に貸与され、大仏坂体育館として利用されていたが、平成14(2002)年に閉所となった。

平成28(2016)年に外観保存を条件として神奈川県が売却、熊澤酒造(株)が購入し、活用に向けた改修を進めていた。戦前の県営水道事業の数少ない歴史遺構として鎌倉市の景観重要建築物等にも指定されている。



改めて施設を見ていく。外観の特徴となっているスクラッチタイルは、大正12(1923)年に開業したF.L.ライト設計の旧帝国ホテルで引掻き傷を付けたスクラッチ煉瓦が使用されたことに始まり、関東大震災後~昭和初期にかけて、鉄筋コンクリート造(以降「RC造」という)の官公庁や金融機関等の外観で多用されたタイルである。内部に入ると、ポンプを設置するために必要な大空間を門型に組んだ柱と梁で構成されるRCラーメン構造により造り出している。



柱の上部や梁の隅角部、階段の側板等に入れられた装飾が機能性の中にも意匠性を持たせた戦前建築の特徴をよく現わしている。玄関を背に、向かって右手のカウンターが調理場、左手がドリンクを提供するバーカウンターとなっている。背の高い窓は採光に優れており、店内は少ない照明でも十分に明るい。上部にはかつて、ポンプの更新などに使用されていたのだろう移動式クレーンが残されており、水道施設としての歴史も感じられるようになっている。正面中央の階段を上がった座席部分はRCの仕切り壁が設けられていたが、ガラス窓を配した木製の仕切り壁に改修されており、半個室のように利用できそうである。全体的に歴史的建造物を活用した飲食事業を多く手掛けてきた熊澤酒造(株)の拘りが感じられる素敵な空間構成となっている。



窓際の席に着き、早摘みレモンエールとマルゲリータのピザを注文した。小田原市片浦地区で栽培されたレモンを使用して作られる早摘みレモンエールは、鼻に抜けるレモンの清々しい香りと微かに感じる酸味、ビールの苦みが癖になる味わいである。店内のピザ窯で焼き上げられたマルゲリータは、外はサクサク、中はモチッとした生地に濃厚で弾力のあるモッツァレラチーズのコクとトマトソースの酸味、バジルの爽やかな香りが合わさり、ビールとの相性も抜群であった。

一部外構工事等が残っており、暫くはプレオープンとのことであるが、令和5(2023)年中の本格オープンを目指しているそうだ。観光やハイキングの拠点施設、大空間を活かしたパーティー等にも活用できそうであり、今後の展開が楽しみである。



閲覧数:1,370回0件のコメント

Commentaires


bottom of page