JR東海道線国府津駅に降り立ち旧東海道を小田原方面に向かう。古くからの街道筋であるためか、沿道には現在も看板建築と呼ばれる商店建築や出桁造りの町家等が建ち並んでいる。その一画、かつて陶器を販売していた旧長谷川商店(昭和2(1927)年上棟)の家屋に令和3(2021)年から店を構えるのが「精進カフェ毬亜樹」である。
改めて建物を見ていく。外観は桁と呼ばれる屋根を支える水平材を突き出した「出桁造り」で関東圏の町家に多い造りである。入母屋造りの屋根には伝統的な日本建築に用いられる緩やかな「むりく」が付いている。正面は8枚の硝子戸が付いており、上部の欄間には伝統的な摺り硝子の一つ結霜硝子(英名:フェザー硝子)が使われている。広い間口上の胴差し(水平材)は途中で継のない一本材であり、立派な巨木から切り出されたことが窺える。
こうした価値が評価され、平成16(2004)年には国の有形文化財に登録もされているそうだ。硝子戸を開けて店内に入ると、年季の入った土間に高い天井、3方を棚に囲まれた空間に食材や酒類が並んでいる。陶器店であった頃はこうした棚やテーブルに陶器が所狭しに並んでいたそうだ。気さくな店主に案内され、硝子戸沿いのテーブル席に着くと、店内の一画に置かれたピアノが目に留まった。月に1回程演奏会なども開催しているそうで、土間や木の壁、壁沿いの棚に反響して良い音が響くとのことである。
精進カフェの店名のとおり、同店では大豆ミートや各種の豆類、オーガニックの身体に優しい食材を使った料理を提供している。今回は古代小麦の一種であるオーガニックのスペルト小麦を使ったバナナケーキと小田原さんの青みかんを使ったホットドリンクを注文した。バナナケーキはしっとりした食感にぎっしり詰まったバナナの優しい甘味が癖になる味わいである。ホットドリンクの爽やかなみかんの香りと酸味がケーキとマリアージュを奏でており、美味しくいただけた。
同店はカフェの他、夜はBAR(昼間でも飲酒は可能)営業もしており、店主自ら買い付けた拘りの焼酎や日本酒が味わえる。またギャラリーとしての一面も持っており、店内には絵や書画等の作品も展示されていた。現在は水曜日と日曜・祝日を中心とした営業となっているが今後営業日も増やしていくとのこと。今度は旧東海道沿いの商店建築等も巡りながら、改めてゆっくり再訪してみたい。
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