かつては小田原城下に水を引いた要所として、近代以降は華族たちがこぞって別邸を構えた別荘地として発展してきた小田原市板橋地区。地区内を走る旧東海道沿いには今も立派な商家や町家、洋館等が点在する。その一画、昭和初期に建てられた築約90年の旧下田豆腐店の店舗を改装して令和2(2020)年3月にオープンしたのが今回の歴飯で紹介する「TEA FACTORY 如春園」である。店名は「養之如春」(何事を成すにも、春の光が万物を育ててゆくようにゆっくりと、あせらず、ゆたかにやる)から取っているそうだ。
先ず建物を見ていく。出桁造り、平屋の町家で、押縁下見板張りの外観に腰高まで50角2色のモザイクタイルが貼られた出窓が付く。おそらく豆腐屋であったころには、この小窓から往来の客に豆腐を販売していたのではないだろうか。やはり豆腐屋のころから残る屋根上の立派な煙突が愛くるしい。
硝子戸を開けて店内に入ると、右手が茶葉等の物販スペース、左手が茶を焙煎する工場となっている。同店では、小田原城後背地の城山にある茶畑の他市内2か所にて有機と無施肥の茶葉(紅茶と緑茶)を栽培しており、この茶葉を工場にて焙煎しているそうだ。なお、ロゴに使用されているカエルは、カエルが安心して生息できるような茶畑の環境をイメージしているそうだ。
正面を一段上がった小上がりの喫茶スペースに入ると、奥行きのある2間に客席が設けられている。千本格子の入った鴨居や線の細い建具が美しい。席に着き、ほうじ茶のバスク風チーズケーキと「こゆるぎ紅茶」を注文する。チーズケーキは濃厚な味わいだが、しっかりとほうじ茶が香る。店内の工場で作られた「こゆるぎ紅茶」は、発酵時間を短くしているとのことで、初めは緑茶のような青っぽさが香ったが、飲み進めると茶葉の甘味と僅かな酸味、後から香ってくる紅茶の香りが美味しい。チーズケーキとも良く合っていた。同店ではランチタイムの南インドのカレーも人気とのことなので、今度はランチタイムを狙って再訪したい。近くには[歴飯_107]でも紹介した武功庵(旧内野家住宅)もある。残念ながら令和4(2022)年12月で閉店してしまったが、小田原市による活用検討が本格化するようなので、板橋エリアの今後の展開が楽しみである。
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