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[レポート]コンサート in ヘリテイジ ピアノが案内する横浜の歴史とまち Vol.9 【公益社団法人横浜歴史資産調査会】




<コンサート in ヘリテイジ ピアノが案内する横浜の歴史とまち Vol.9>


令和6(2024)年2月22日、「コンサート in ヘリテイジ ピアノが案内する横浜の歴史とまち Vol.9 」が横浜市山手町港の見える丘公園内横浜市イギリス館のホールで開催され約30人が参加し、歴史的建造物での音楽を楽しんだ。

「コンサート in ヘリテイジ ピアノが案内する横浜の歴史とまち 」は横浜の歴史的建造物やまちの魅力をピアノの音色で伝えるコンサート。平成24(2012)年から後藤泉氏のピアノ演奏、長谷川正英氏の解説のコンビで続いており、今回で 9 回目、コロナ禍を経て4年ぶりの開催となった。主催は公益社団法人横浜歴史資産調査会。


開演後、主催者の挨拶に続いて、横浜市イギリス館を管理している公益財団法人横浜市緑の協会の伊藤課長から「イギリス館は年間180回も演奏会が行われる人気の会場。今回も横浜山手西洋館7館で開催されている山手芸術祭の一環としての開催となった。山手西洋館には150人以上の演奏ボランティアもおり、こうしたクラッシックコンサートとの相性は非常に良いと考えている」と挨拶があった。


この日、演奏された曲目とエピソードの一部は下記の通り。


⚪︎ヨハン・シュトラウス2世(1825-1899):春の声op.4103

「19世紀のウィーンにおいて、舞踏会用のワルツが大流行しました。ワルツ王と呼ばれるシユトラウス2世は、ヴァイオリンを奏でながら自らの楽団を率いて舞踏会で演奏をし、次々に魅力的なワルツを生み出しました。「春の声」の原曲はソプラノ独唱付の演奏会用ワルツです。」


  • 後藤「シュトラウスは没後125年。コンサート in ヘリテイジの再開の喜びを込めて選びました。」


⚪︎團伊玖磨(1924-2001):花の街

「今年2024年に生誕100年を迎える團伊玖磨の作品です。江間章子作詞で1947年に作られています。戦後、NHKラジオ番組のテーマ曲として使われて有名になりました。」

⚪︎マンシーニ(1924-1994):映画「ひまわり」より”愛のテーマ”

「同じ<生誕100年のマンシーニの作品。1970年に作られた映画「ひまわり」の主題曲です。」


  • 長谷川「横浜では2027年に国際園芸博覧会が開催される。横浜山手西洋館はいつも花で飾られているが、ボランティアの方の力が大きい。」

  • 後藤「東洋と西洋と離れた土地で同世代の作曲家の曲ですが、2曲続けて演奏しても全く違和感がない。」


⚪︎クープラン(1668-1733):神秘的なバリケード(クラヴサン組曲第2巻第6オルドルより)

「18世紀フランスの作曲家クープランの作品。クラヴサンとはチェンバロのフランス語での名称です。無窮動的な不思議な魅力に溢れた小品です。」

⚪︎カスキ(1885-1957):夜の海辺にて

「フィンランドの作曲家カスキが、ピアノのために書いた作品。哀愁を帯びたメロディが北欧の冬の景色を思い起こさせるような佳曲です。」

⚪︎ブラームス(1833-1897):間奏曲 イ長調 0p.118-2

「ドイツ出身、ウィーンで活躍したブラームスが晩年に書いた珠玉のピアノ小品集からの1曲。包み込むような豊かな響きがしみじみと心を温めてくれるような名曲です。」


  • 長谷川「後半で演奏する第九が歴史的建造物で言うと東京駅のようなシンボルな建物だとすると、これらの3曲は、山手西洋館のような小さな西洋館。」

  • 後藤「ミステリアスなタイトルの『神秘的なバリケード』。知らなかった楽曲だったが、コロナ禍でいろいろな人がYouTubeなどでアップしている中で知ったチェンバロのために作られた曲。」


⚪︎ショパン(1810-1849):幻想即興曲 八短調 0p.66

「ポーランドの作曲家ショパン。生前には発表されなかった曲ですが、楽譜を預かった友人が出版をしました。心をかき乱されるような動きのある主部が、美しい歌の中間部を挟みます。」


  • 長谷川「ショパンの出身地ポーランドと横浜のつながりを調べていたら、『ロシア革命の動乱でシベリアに取り残されたポーランド人の孤児ら約760人が日本によって救出され、大阪で擁護、のちにアメリカ経由でポーランドに帰国する際横浜港から出港した』と言うエピソード*1に触れた。横浜から出港する際、子どもたちが『日本に残りたい、日本で暮らしたい。』と泣いたと伝えられている。思わず涙した。」

⚪︎ベートーヴェン(1770-1827)~リスト(1811-1886)編曲ピアノ版:交響曲第9番ニ短調 0p.125「歓喜の歌」より

「1824年、54歳のベートーヴェンはこの壮大な第9交響曲を完成させました。この曲は、ベートーヴェンがまだボンにいた 23歳の時(1793年)に、シラーの詩「歓喜に寄す」に感動した事から発しています。およそ30年の間、彼の中で温め続けられたこの詩は、交響楽史上でも画期的な、合唱を伴う交響曲の終楽章となります。合唱を伴う交響曲の構成には、大変苦心の跡が見られ、何度も書き直されて、今日聞くことの出来る構成が出来上がっています。第1楽章は、宇宙の始まりのような神秘的な渦から爆発的にエネルギーが生み出されます。第2楽章では生まれたエネルギーが絶えず躍動し続けます。第3楽章では、ベートーヴェンの最も美しい音楽の一つとも言える天上のひとときです。第4楽章ではこれまでの音楽をさらに超えるものを願い、ついに歓喜の歌のメロディが現れます。」


  • 長谷川「第九は記念日に演奏される楽曲。日本では年末に多く演奏される。フルトヴェングラーがナチスドイツのヒトラー総統誕生祝賀演奏会で指揮したエピソード*2、ベルリンの壁崩壊時にバーンスタインは、終楽章の詞の「歓喜(Freude/フロイデ)」を、「自由(Freiheit/フライハイト)」に変更して公演したエピソード*3:などが有名」

  • 後藤「本来ならオーケストラで演奏する楽曲をリストピアノ用に編曲している。CDや身近な場所でのコンサートがなどがない時代には、オーケストラの曲をピアノ曲にアレンジして家で聞くのが一番身近な方法だったのでは。今回は70分以上ある楽器の各章を少しずつ切り出して30分程度にまとめたイギリス館特別版で演奏するので全体の構成がどのようになっているかを楽しんでほしい」


迫力に満ちた30分にわたる演奏終了後、大きい拍手の中、コンサートは幕を閉じたが、次回開催されれば10回目となる「コンサート in ヘリテイジ 」が今から楽しみである。


後藤泉氏:桐朋女子高等学校音楽科を経て桐朋学園大学ピアノ科卒業。同大学アンサンブル・ディプロマコース修了。田沢恵巳子、 ゴールドベルク山根美代子、三浦みどり、P. ポンティエの各氏に師事。 これまでにウィーン・フィル首席奏者を始め、海外のトップ奏者と数多く共演するほか、ソリストとして、小林研一郎指 揮日本フィル、井上道義指揮新日本フィル、ローマン・コフマン指揮ベートーヴェンオーケストラ・ボン、キーウ室内管弦 楽団などと協演。 ベートーヴェンをライフワークとするほか、飛鳥II船上でのコンサート、他分野とのコラボレーション、各地での様々な形 でのコンサートも好評を博している。


エピソード*1:第一次世界大戦(1914 - 1918)時のシベリアには、ポーランドを分割占領していた帝政ロシアにより「政治犯」として流刑にされた独立派や経済移民ら約20万人のポーランド人がいた。ロシア革命(1917)に伴う内戦で多くの子供たちが親を亡くしたり、飢餓や病気に苦しんでおり、ポーランドは子供たちの救出を各国に要請。日本赤十字社が救済を決め、日本が官民一体で1920 - 1922年にかけてシベリア出兵中の陸軍が約700人を救出。孤児たちは栄養状態が悪く、病気にかかっていた子供も多かったが、東京(仏教系育児所「福田会育児院」)と大阪に滞在して手厚い看護を受けて回復、米国、英国を通じて祖国に戻った。


エピソード*2:昭和17(1942)年4月、戦況の悪化のなか、ナチスドイツ宣伝大臣ゲッベルスは国民統合の象徴としてヴィルヘルム・フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwängler,1886 - 1954)に総統誕生祝賀演奏会を指揮させようと画策。それまでほかに演奏スケジュールを入れ要請を断っていたフルトヴェングラーだが不本意ながらこれを受け入れる。戦時下、ナチス党幹部を背にしての極限状態のなかで行われた指揮は、ヒトラーに対する怒りの爆発ではないかとも思われ、まさに凄絶の極みとも評されるこの日の演奏はドイツ全土にラジオ放送されたため、ラジオ中継音源が残っており、今日でも聞くことができる。


エピソード*3:平成元(1989)年12月25日、ドイツの東西分離の象徴でもあったベルリンの壁が崩壊したことを記念しレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein 1918-1990)が指揮による「第九」の演奏会が開催された。バーンスタインはここで、バイエルン放送交響楽団をメインに、計6つの楽団(西ドイツ・東ドイツ・アメリカ・ソ連・イギリス・フランス)のメンバーによって特別に編成されたオーケストラ、これに東西ドイツの合唱団と東西ドイツ、英米のソリストが加わった豪華な布陣によるアンサンブルを指揮した。バーンスタインはここで、ベルリンの壁が崩壊したという歴史的事実を祝うために、終楽章のシラーによる詞の「歓喜(Freude/フロイデ)」を、「自由(Freiheit/フライハイト)」に変更した。この時すでにバーンスタインは肺ガンに冒されており、翌年10月に亡くなっている。


<コンサート in ヘリテイジ ピアノが案内する横浜の歴史とまち Vol.9>


・日 時:令和6(2024)年2月22日(木)午後6時30分 - 8時

・会 場:横浜市イギリス館(横浜市中区山手町115-3)

・出 演:ピアノ演奏 / 後藤 泉

・解 説:長谷川正英(ナビゲーター)

・司 会:米山淳一(公益社団法人横浜歴史資産調査会 常務理事)

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