「横浜三塔の日」を記念して、令和6(2024)年3月9日に横浜税関本庁舎が一般公開された。
横浜税関の歴史は古く、安政6(1859)年の横浜港と同時期に設置された「神奈川運上所」まで遡る。その後「横浜税関」と改称、初代庁舎は、明治6(1873)年に現在の神奈川県庁の建つ敷地に建設されたが、明治18(1885)年には海側に移転している。現在の庁舎(クイーンの塔)は、関東大震災の復興事業として昭和9(1934)年に再建された3代目となる。設計は大蔵省営繕局工務部で、吉武東里の原案による。アカンサスの葉を型どった装飾や三連アーチ、幾何学模様、ねじり柱(ソロモンの柱)は、東西の建築的特徴が融合したイスラム風となっており、東西に開いた国際港・横浜をよく表していると思う。
今回の一般公開では、庁舎90周年も記念してクイーンの塔の一部も特別公開された。1階で受付を済ませアトリウムに入ると、庁舎の模型や税関庁舎に纏わるエピソードが展示されている。中でも、当初は、先に竣工していた神奈川県庁舎(キングの塔)より2m低い建築計画だったが、22代横浜税関長であった金子隆三の「日本の表玄関たる国際港・横浜の税関庁舎は高くすべき」との厳命の下、当時の横浜では最高の51.5m(キングの塔は48.6m)の塔が建てられたとのエピソードが興味深かった。
一通り展示を観た後は、エレベーターで7階に上がる。既存庁舎の景観に配慮し、中庭に増築された新庁舎のデッキからは、赤レンガ倉庫、象の鼻パーク、大さん橋と、横浜港が一望できる。会議室では、70周年を迎えた税関音楽隊による「日本税関の歌」の演奏もあった。
次は5階に案内される。今回は、ここからクイーンの塔の内部に入り、屋上テラスまでが特別公開されていた。屋上テラスに出ると、カップやアカンサスの葉を型どった装飾を間近に眺めることができ、キングの塔も見える。通りを挟んで向かいに建つJA神奈川グループビルの外壁に写り込むクイーンの塔も味わい深い。
再びエレベーターに乗り、3階に向かう。マッカーサー元帥も執務した税関長室、応接室は細部まで装飾が施されており、見入ってしまう。税関長室では、歴代税関長の写真と共に彼らが身に付けた大礼服も展示されていた。余談ではあるが、8代目税関長であった有島武の子息が、鎌倉の西御門サローネを建てた作家の里見弴であるので、里見自身、横浜で見聞きした建築様式の影響も受けていたかもしれない。
横浜税関本庁舎は近年横浜三塔の日に合わせた庁舎公開も行っているので、機会があれば、一度見学してみてはいかがだろうか。
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