JR鎌倉駅東口の改札を出て若宮大路に向かう。「VERVE COFFEE ROASTERS KAMAKURA」の脇から路地を奥に入っていくと、緩やかにカーブする小径に沿って黒い板塀が続く。塀に沿って歩いてくと、「大佛茶廊」と書かれた表札の付く棟門が見えてくる。大正8(1919)年に建てられた数寄屋造りの古民家は、鎌倉市の「景観重要建築物等」に指定されている。昭和27(1952)年に小説家であった故大佛次郎が購入し、接客の場として使ってきたことから「おさらぎ邸」として親しまれてきた。一時は解体の可能性もあったそうだが、有志が集まり立ち上げた「一般社団法人大佛次郎文学保存会」が令和2(2021)年に継承、修繕工事を経て現在に至る。令和6(2024)年10月から週末限定でカフェがオープンしたと聞き、現地を訪ねた。
門をくぐると左手に芝生の広がる庭、奥に玄関が続く。緩やかな勾配の茅葺屋根の上には、「芝棟(しばむね)」が乗っている。「芝棟」とは土を盛って棟材を固め、そこに植物が根を張ることで棟材を固着する伝統工法の一つだが、茅葺屋根の減少に伴い、近年は珍しい景観となってしまった。茅葺屋根の下には、銅板葺きの下には銅板葺きの下屋が付く。下屋は軽い銅板葺きとすることで屋根の荷重を軽減でき、屋根を支える柱の間隔を大きくすることで、室内からの見える景色を阻害しないよう工夫されている。
玄関を入ると複数の平たい石が埋め込まれたたたき、腰壁には細竹、壁との見切りには敢えて湾曲した部材を用いることで、「野趣(やしゅ)」と呼ばれる自然の趣をそのままに生かした空間となっている。高い天梁から下げられた照明が浮き上がり、陰影を作ることで奥行きを感じる玄関となっている。玄関脇のレジで注文を済ませ、座敷に入ると、右手が藤棚のある「藤」、左手が梅の木のある「梅」の客席となっている。今回は梅の座敷に入り、抹茶と和菓子のセットをいただく。和菓子は鎌倉の老舗「美鈴」の上生菓子を提供しており、今回は秋らしい柿を模した練り切りだった。ゆったりの庭を眺めながら味わうお茶と御菓子は豊かな時間を提供してくれる。
大佛次郎は鎌倉の自然や歴史的景観保存に尽力したことでも知られる。昭和39(1964)年に鶴岡八幡宮裏手に宅地開発計画立ち上がった折り、日本初のナショナルトラスト運動に参加し、「(公財)鎌倉風致保存会」の設立、後に「古都保存法」の制定にもつながっている。こうした縁もあり、「おさらぎ邸」は昭和58(1953)年に鎌倉風致保存会の「風致保存会保存建造物」に指定され、春と秋の一般公開も行なわれていた。鎌倉の風土を愛した大佛次郎の想いが詰まった「カフェ大佛茶廊」で古都を感じてみてはいかがだろうか。
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