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[レポート]横浜山手西洋館 世界のクリスマス2024【THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA】



横浜山手西洋館で恒例の「世界のクリスマス」が令和6(2024)年12月1日(日)から始まった。期間は12月25日(水)まで。

世界のクリスマスは平成12(2000) 年、外交官の家、ブラフ18番館、エリスマン邸、山手234番館、山手111番館の5館でスタートした。平成13(2001)年に横浜市イギリス館、平成14(2002)年にベーリック・ホール、平成17(2005)年に旧山手68番館が加わり、現在の8館体制となった。第1回では約3万6千人であった入館者数は、昨年(令和5(2023)年)は約14万4千人を数えるほどのイベントとなり、横浜山手の風物詩ともなっている。今年は、外交官の家が改修工事のため、残りの7館で開催されている。

今年のテーマは「煌めく山手の丘物語」。今年も各国の特徴を活かし、一流のアーティストによる個性があふれる装飾がが見学者を歓迎する。


ブラフ18番館 [スイス連邦]


4つの国語があるスイスでは、言語圏ごとに文化や料理が異なるが、クリスマスは家族そろって教会に行ったり、家でお祝いしたりと家族で過ごす日とされている。アドヴェントの期間にはスイス各地でクリスマスマーケットが開かれ、冬の風物詩となっている。

装飾を担当したのは福田博子氏(花音フルールエターブル主宰)。今回の装飾では、スイス国旗の色、赤と白をテーマに、家族団らんのクリスマスディナーテーブルをコーディネート。スイスの木工製品やクリスマスオーナメントなどを飾っている。サロンではスイスを代表する食材、チーズのある食卓を再現。スイスのチーズの紹介もしている。



日本とスイスの二国間関係は、文久3年12月29日(1864年2月6日)、第14代将軍徳川家茂(1846 - 1866)とスイス連邦との間で最初の修好通商条約が締結されたことにより確立された。今年(2024年)は、日本とスイス国交樹立160周年にあたることから、在日スイス大使館・スイス政府観光も展示に全面的に協力している。



ブラフ18番館は、関東大震災後に山手町45番地に建てられたオーストラリアの貿易商バウデン氏の住宅であった。戦後は天主公教横浜地区(現カトリック横浜司教区)の所有となり、カトリック山手教会の司祭館として平成3(1991)年まで使用されていた。同年に横浜市が部材の寄贈を受け、山手イタリア山庭園内に移築復元し、平成5(1993)年から一般公開している。震災による倒壊と火災を免れた住宅の一部が、部材として利用されていることが解体時の調査で判明している。



建物は木造2階建て、1・2階とも中廊下型の平面構成で、白い壁にフランス瓦の屋根、煙突は4つの暖炉を1つにまとめた合理的な造りとなっている。その他、ベイウィンドウ、上げ下げ窓と鎧戸、南側のバルコニーとサンルームなど、洋風住宅の意匠を備えている。外壁は震災の経験を生かし、防災を考慮したモルタル吹き付け仕上げとなっている。

館内は震災復興期(大正末期~昭和初期)の外国人住宅の暮らしを再現し、当時元町で製作されていた横浜家具を修復して展示している。さらに、平成27(2015)年には2階の展示室を寝室にリニューアルした。本館につながる付属棟は、貸しスペースとして、ギャラリー・展示会などに利用されている。横浜市認定歴史的建造物。


ベーリック・ホール [フィンランド共和国]



サンタクロースは、フィンランドのラップランドにある、謎に満ちたコルヴァトゥントゥリ(「耳の山」)の出身だそうだ。12月13日の聖ルチア祭からはじまり、ヨウルクーシと呼ばれる本物の木のクリスマスツリー。飾りつけや色合いはシンプルがフィンランド流。キャンドルを灯し、ゆったりした時間を過ごす。

装飾を担当したのは、田口セツコ氏(Atelier Andante)。世界で一番幸せな国といわれるフィンランド。家族や大切な人と過ごす幸福感に満たされる時。今回の装飾ではコニファーの美しい緑を基調にし、自然豊かな大地をその土地に根付く伝統を大切にする人々のクリスマスを来館者に感じて頂けるようになっているのが特徴。



ベーリック・ホール はイギリス人貿易商B.R.ベリック氏の邸宅として、昭和5(1930)年に設計された。第二次世界大戦前まで住宅として使用された後、昭和31(1956)年に遺族より宗教法人カトリック・マリア会に寄贈された。その後、平成12(2000)年まで、セント・ジョセフ・インターナショナル・スクールの寄宿舎として使用されていた。 現存する戦前の山手外国人住宅の中では最大規模の建物で、設計したのはアメリカ人建築家J.H.モーガン。モーガンは、山手111番館や山手聖公会、根岸競馬場など数多くの建築物を残している。約600坪の敷地に建つべーリック・ホールは、スパニッシュスタイルを基調とし、外観は玄関の3連アーチや、クワットレフォイルと呼ばれる小窓、瓦屋根をもつ煙突など、多彩な装飾が施されている。



内部も、広いリビングルームやパームルーム、アルコーブや化粧張り組天井が特徴のダイニングルーム、白と黒のタイル張りの床、玄関や階段のアイアンワーク、また子息の部屋の壁はフレスコ技法を用いて復原されていることなど、建築学的にも価値のある建物である。 平成13(2001)年に横浜市は、建物の所在する用地を元町公園の拡張区域として買収するとともに、建物については宗教法人カトリック・マリア会から寄贈を受けた。復原・改修等の工事を経て、平成14(2002)年から、建物と庭園を一般公開している。横浜市認定歴史的建造物。


エリスマン邸 [ドイツ連邦共和国]



ドイツ国立花卉装飾専門学校ヴァイエンシュテファンで室内装飾を学んだというガブリエレ・ワグナー久保氏(Gabriele Kubo Flowers)と橋口学氏(ハシグチアレンジメンツ)の二人。「『森』の中で私たちはクリスマスが運んできてくれる穏やかな静けさを体験できるでしょう。私たちは『森』をクリスマスツリーの形やリースの形として、『森』の香りを枝やマツカサによって家の中へ持ち込みます。クリスマスの飾りは私たちの家と自然を結びつけるものです。クリスマスに特徴的な色の組み合わせに注目してください。キャンドル、実物、枝やグリーン。ドイツのクリスマスツリーの飾り方、リースの作り方や飾り方。私たちの手作業による装飾をどうぞご覧ください。」



エリスマン邸は、生糸貿易商社シーベルヘグナー商会の横浜支配人格として活躍した、スイス生まれのフリッツ・エリスマン氏の邸宅であった。大正14(1925)年から15(1926)年にかけて、山手町127番地に建てられた。設計は、「近代建築の父」といわれるチェコ人の建築家アントニン・レーモンド。



創建当時は木造2階建て、和館付きで建築面積は約81坪。屋根はスレート葺、階上は下見板張り、階下は竪羽目張りの白亜の洋館でした。煙突、バルコニー、屋根窓、上げ下げ窓、鎧戸といった洋風住宅の意匠と、軒の水平線を強調した木造モダニズム的要素を持っている。設計者レーモンドの師匠である世界的建築家F.L.ライトの影響も見られる。



昭和57(1982)年にマンション建築のため解体されたが、平成2(1990)年、元町公園内の現在地(旧山手居留地81番地)に再現された。1階には暖炉のある応接室、居間兼食堂、庭を眺めるサンルームなどがあり、簡潔なデザインを再現している。椅子やテーブルなどの家具は、レーモンドが設計したもの。かつて3つの寝室があった2階は、写真や図面で山手の洋館に関する資料を展示している。また、昔の厨房部分は喫茶室として、地下ホールは貸しスペースとして利用されている。


山手234番館 [ブルガリア共和国]



ブルガリアのクリスマスは古くから伝わるオーソドックス正教と伝統に基づいている。長く寒い冬の暮らしの中で、クリスマスは家族が一緒に過ごすひと時。家族をとても大切にするブルガリア人はピタと呼ばれるパンを焼き、手料理を用意し、家の中でみんなで祝う。

装飾を担当したのは山美イレン氏(エンブロイダリスタジオ羅美那)。今回の装飾では、大きなクリスマスツリーに全て刺繍で出来たオーナメントがたくさん飾られている。また、伝統的なブルガリア刺繍や食器トロヤン陶器を施した飾りつけが特徴。家族で過ごすブルガリアの温かいクリスマスに浸っていただきたい。



山手234番館は、昭和2(1927)年頃に外国人向けの共同住宅(アパートメントハウス)として、現在の敷地に建てられた。ここは関東大震災の復興事業の一つで、横浜を離れた外国人に戻ってもらうために建設された。設計者は、隣接する山手89-6番館(現「えの木てい」)と同じ、朝香吉蔵。 建設当時は、4つの同一形式の住戸が、中央部分の玄関ポーチを挟んで対称的に向かい合い、上下に重なる構成であった。



3LDKの間取りは、合理的かつコンパクトにまとめられていた。また、洋風住宅の標準的な要素である、上げ下げ窓や鎧戸、煙突なども簡素な仕様で採用され、震災後の洋風住宅の意匠の典型といえる。 第2次世界大戦後の米軍による接収などを経て、昭和50年代頃までアパートメントとして使用されていたが、平成元(1989)年に横浜市が歴史的景観の保全を目的に取得。平成9(1997)年から保全改修工事を行い、平成11(1999)年から一般公開。1階は再現された居間や山手234番館の歴史についてパネルを展示、2階は貸しスペースとして、ギャラリー展示や会議等に利用されている。横浜市認定歴史的建造物。


横浜市イギリス館 [英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)]



今年も横浜市イギリス館のクリスマスは「英国」。初参加となった平成13(2001)年の第2回から19年連続で「英国」を担当している。英国総領事公邸であったこの建物の由来を思えば当然かもしれない。

イギリスでは、家族みんなで集まってクリスマスを祝う。暖炉に火を入れて、暖かな部屋でクリスマスソングを聴きながら楽しいお食事を。賑やかにクリスマスの夜が過ぎていく。

装飾を担当したのは、今川朋子氏(Tomoko Flower Studio)。今回の装飾では、英国エリザベス女王が愛好したロイヤルクラウンダービーの華やかな器を使って、クリスマスカラーに彩られた花々でテーブルを飾っている。ローソクに火をともし、クリスマスドライフラワーやガーデンもイギリスの暖かなクリスマスを演出している。



横浜市イギリス館は、昭和12(1937)年に、上海の大英工部総署の設計によって、英国総領事公邸として、現在地に建てた。鉄筋コンクリート2階建、広い敷地と建物規模をもち、東アジアにある領事公邸の中でも、上位に格付けられていた。 主屋の1階の南側には、西からサンポーチ、客間、食堂が並び、広々としたテラスは芝生の庭につながっている。2階には寝室や化粧室が配置され、広い窓からは庭や港の眺望が楽しめる。地下にはワインセラーもあり、東側の付属屋は使用人の住居として使用されていた。



玄関脇にはめ込まれた王冠入りの銘版(ジョージⅥ世の時代)や、正面脇の銅板(British Consular Residence)が、旧英国総領事公邸であった由緒を示している。 昭和44(1969)年に横浜市が取得し、1階のホールはコンサートに、2階の集会室は会議等に利用されている。また、平成14(2002)年からは、2階の展示室と復元された寝室を一般公開している。市指定文化財。


山手111番館 [南アフリカ共和国]



南アフリカは、南半球に位置しているため、クリスマスは毎年、日差しが強く、花々が咲き誇る夏にやってくる。多くの南アフリカ人がキリスト教徒であることから、毎年クリスマスを祝う。クリスマスは、人が集まって一緒に食事をしたり、踊ったり、遠く離れている親戚に会うために美しい国内を旅行したり、家族と共に過ごす大切な時間。学校はクリスマス休暇で休みになるため、キャンプに出かける人もいる。クリスマス・イブには、キャンドルサービスをしながらクリスマス・キャロルを歌ったり、クリスマスの朝は、教会に礼拝に出かける。



南アフリカの伝統的なビーズ細工を飾ったクリスマスツリーや、プロテア(南アフリカの国花)の花、動物のオーナメント、キャンドルライト、南アフリカの紋章をあしらった金色の食器、そしてクリスマス・ギフトなど、南アフリカのクリスマス・スピリットを彩る装飾となっている。装飾は駐日南アフリカ共和国大使館が担当した。



山手111番館は、横浜市イギリス館の南側にあるスパニッシュスタイルの西洋館。ワシン坂通りに面した広い芝生を前庭とし、港の見える丘公園のローズガーデンを見下ろす建物は、大正15(1926)年にアメリカ人ラフィン氏の住宅として建設された。設計者は、ベーリック・ホールと同じく、J.H.モーガン。 玄関前の3連アーチが同じ意匠となっているが、山手111番館は天井がなくパーゴラになっているため、異なる印象を与える。



大正9(1920)年に来日したモーガンは、横浜を中心に数多くの作品を残しているが、山手111番館は彼の代表作の一つと言える。赤い瓦屋根に白壁の建物は、地階がコンクリート、地上が木造2階建ての寄棟造り。創建当時は、地階部分にガレージや使用人部屋、1階に吹き抜けのホール、厨房、食堂と居室、2階は海を見晴らす寝室と回廊、スリーピングポーチを配していた。



横浜市は、平成8(1996)年に敷地を取得し、建物の寄贈を受けて保存、改修工事を行い、平成11(1999)年から一般公開している。館内は昭和初期の洋館を体験できるよう家具などを配置し、設計者モーガンに関する展示等も行っている。現在、ローズガーデンから入る地階部分は、喫茶室として利用されている。市指定文化財。


旧山手68番館 [大韓民国]



韓国のクリスマスは、様々なイベントや華やかなクリスマスデコレーションで飾りつける。宗教を超え、誰もが喜び、楽しめるクリスマスにするために、クリスマスツリーや華やかなイルミネーションで街はにぎわい、輝きます。この時期には、寒い冬の日に温もりを分ち合おうと差し伸べる手も増えてくるという。



今回の装飾では、クリスマスのシグニチャーカラーである赤と緑をベースに、ブルーなどを使って飾り、韓国・仁川市と釜山市から提供されたキャラクターなどの飾りと、モミの木のツリーやクリスマスの花飾りが交わり、冬の寒さに温もりを感じさせるような、輝いて温まるクリスマス雰囲気を演出している。装飾を担当したのは崔星福(Choi Florist)。



旧山手68番館は、昭和9(1934)年に建てられた外国人向けの賃貸住宅で、昭和61(1986)年に山手公園にその一部を移築したもの。現在は、山手公園管理センターとして利用されている。横浜市登録歴史的建造物。


横浜山手西洋館では、この「世界のクリスマス」のほか、毎年「花と器のハーモニー」「ハロウィンウォーク」「山手芸術祭」といった恒例行事があり、見学者の楽しませ、西洋館の魅力を高めている。是非、こうした機会にも訪れていただきたい。



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