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[コラム]近代別荘地葉山の記憶を辿る【THE HERITAGE TIMES YOKOHAMA KANAGAWA】

更新日:2023年1月31日

三浦半島北西部に位置し、相模湾に面した葉山町は、明治以降、皇室をはじめ、華族や文化人たちの多くが別荘を構える湘南屈指の別荘地となってきた。中でも明治27(1894)年に造営され、現在まで使用されている葉山御用邸(現在の本邸は昭和56(1981)年)は、町にとって象徴的な存在である。別荘の多くは失われてしまったが、明治・大正・昭和と3時代に渡り紡がれてきた「別荘文化」は町の随所に散らばり、今も記憶の欠片として来訪者を往時へと誘う。 ここでは、そんな葉山町の別荘文化に通じるスポットやお土産を紹介する。


○神奈川県立近代美術館葉山館

かつては高松宮別邸(それ以前は有栖川宮別邸)であり、敷地内には当時の風情を感じる松林がある。一色海岸に向かってなだらかに下る地形を活かした庭園は、無料で開放されており、潮騒を聞きながら、松林に点在する屋外展示を鑑賞できる。




○engawa cafe & space

神奈川県立近代美術館から県道207号線を渡り、角にお地蔵様が祀られた小径に入ると、engawa cafe & spaceの入り口がある。ここは、皇室の侍医頭だった塚原伊勢松の別邸として宮内庁により建てられた。近くには葉山御用邸及び付属邸(現葉山御用邸及び葉山しおさい公園)、高松宮別邸(現神奈川県立近代美術館葉山館)、北白川宮別邸があったようなので、皇室の別荘に近い同地が選ばれたのではないだろうか。なお、engawa cafe & spaceは【歴飯_56】でも紹介しているので、合わせて確認いただきたい。



○山口蓬春記念館

神奈川県立近代美術館の向いに迫る三ヶ岡(大峰山)は、海側にせり出した独立丘陵であり、その山裾から中腹にかけて多くの別荘が建てられた。その一画に、皇居新宮殿の杉戸絵を手掛けた画家の山口蓬春の旧宅とアトリエが同氏の記念館として佇む。戦前企業の寮として使用されていた建物を建築家吉田五十八の進めもあり購入、吉田の手による改修が施され、現在の建物となった。部屋ごとに異なる景色が楽しめ、特に秋にはアトリエの大きな窓から見る庭の紅葉が美しい。


○葉山しおさい公園

神奈川県立近代美術館に隣接した葉山しおさい公園は、かつて御用邸の付属邸であった。美術館の庭園からつながり、一色海岸に抜ける小径は、高い塀と木々の緑に囲まれ、往時の風情を感じる場所である。園内のしおさい博物館のエントランスには、葉山御用邸で実際に使用されていた御車寄せが移築保存されている。6-7月にかけて一色海岸まで続く松林の中に紫陽花が咲き誇る景色は、一見の価値がある。



○葉山夏みかんワイン&夏みかんソーダ

葉山しおさい公園入口から脇道を入ると見えてくる大門商店で販売される葉山夏みかんワインと夏みかんソーダは、葉山らしいお土産の一つだと思う。これは、現在の上皇陛下上皇后陛下が御成婚されたおり、町内に植えられた夏みかんの実を使用して葉山酒商組合で開発された。甘くほろ苦い夏みかんの風味を感じる逸品なので、散策のお供に、お土産に是非試していただきたい。



○臨御橋

葉山御用邸は一色海岸に至る下山川の河口の左右に位置するため、左右を繋ぐ橋が架かっている。その最も河口に架かる「臨御橋」と呼ばれる赤い橋は、一色海岸と長者ヶ崎・大浜海岸を結ぶ連絡橋として、皆に親しまれてきた。老朽化に伴い、現在架け替えプロジェクトとして寄付を募っている。詳細は、【葉山臨御橋架け替えプロジェクトー赤橋プロジェクト】の記事にて紹介しているので、ご興味があれば、合わせて確認いただきたい。



○SUNSHINE + CLOUD OVER EASY

県道207号線の葉山御用邸前を横須賀方面に向かって左折し、国道134号線に入る。この路線はJR逗子駅から葉山御用邸を結ぶ行幸道路として昭和6(1931)年に開通した道路である。逗子方面にしばらく進むと、玉蔵院という寺に隣接して木々の緑に囲まれた建物が見えてくる。ここは、葉山らしさをテーマにしたアパレルや雑貨を販売する「SUNSHINE+CLOUD」と併設するカフェ「OVER EASY」である。関東大震災前は別荘、その後企業の保養所として建替えを経て現在に至っている。店内の一画には、関東大震災で倒壊した別荘の大黒柱が残されている。

なお、SUNSHINE + CLOUD OVER EASYは【歴飯_50】でも紹介しているので、合わせてご確認いただきたい。



○旧加地邸(国登録有形文化財)

SUNSHINE + CLOUD OVER EASYから国道134号線を逗子方面に進み、旧役場前のバス停脇の小径に入る。三ヶ岡(大峰山)南東の山裾にモダンな建物が見えてくる。ここは三井物産の役員であった加地利夫氏の別邸であり、建築家F.L.ライトの弟子、遠藤新の設計により建てられた。水盤や暖炉、照明等に使用された大谷石、幾何学的装飾などライト建築の特徴がよく表れている。現在は、一棟貸しの宿泊施設やレンタルスペースとして活用されている。



○カフェテーロ葉山

国道134号線の葉山大道の交差点から美容室脇の小径を入ると平屋の古民家が見えてくる。ここは、戦前千葉から移築された建物ということ以外来歴がよく分かっていないそうだ。部屋ごとに異なる建具や奥の部屋まで風を通す造りから別荘として建てられた可能性も考えられる。ここでは、コスタリカにこだわった珈琲を楽しめる。

なお、カフェテーロ葉山は【歴飯_02】でも紹介しているので、合わせてご確認いただきたい。





○風早茶房

カフェテーロ葉山を後にし、国道134号線をさらに逗子方面に向かう。風早橋のバス停向かいに建つ立派な古民家カフェ風早茶房は別荘建築の棟梁であった矢嶋儀助が昭和元年に建てた自宅である。棟梁や板金、屋根、塗表具等の別荘建築に携わった職人が多く居住していたことも葉山町が一大別荘地として発展したことに寄与していた。 なお、風早茶房は【歴飯_08】でも紹介しているので、合わせてご確認いただきたい。



この他、国道134号線沿いには、旧東伏見宮別邸(大正3(1914)年 現イエズス孝女会修道院旧館 国登録有形文化財 通常非公開)等も現存している。


【参考資料】

  • 『葉山のこみち』NPO法人葉山環境文化デザイン集団編集 2005年

  • 『旧き良き時代の断章 葉山の別荘』杉浦敬彦著 清水襄写真 2007年

  • 『葉山の別荘時代』NPO法人 葉山環境文化デザイン集団 2006年発行 2021年改訂

  • 『明治の皇室建築―国家が求めた“和風”像』小沢朝江著 2008年


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