三溪園にある重要文化財「臨春閣」では30年ぶりとなる屋根の葺き替え工事を中心とした保存修理工事が行われている。この工事ではあわせて耐震補強を行うため、屋内の欄間やそれに付随する色紙などを取り外し、状況の芳しくない一部の修理が施された。
これを機に三溪園内の三溪記念館において「企画展 臨春閣 ー建築の美と保存の技ー」が開催されている。
この企画展の最大の見所は、臨春閣の中に収められている、これらの美術工芸品の数々で、工事完了後は元の場所に戻されるため、それらを間近に見る大変貴重な機会と言える。
ここでは大きく分けて3室ある展示室の見所を紹介する。
<第1展示室「臨春閣」になるまで>
展示室に入ると移築前の臨春閣の様子がわかる「春日出新田建築図」8面の繊細な作図に引き込まれる。建物そのものだけではなく、内装の豪華さが臨場感を伴って手に取るように伝わってくる。また原三溪にこの建物を売り込みを介した古美術商・今井甚吉氏とのやり取りがわかる書簡も見ることができる。紹介から購入に至るまでの過程で、三溪が価格を値切ろうとしていたとも読み取れる部分もあり興味深い。
<第2展示室 臨春閣の数寄屋装飾>
ここではまず「芦雁図」「芦雁図(コロタイプ複製)」が4面ずつ対になった展示が目を引く。この障壁画は臨春閣第二屋「浪華の間」にあるが、通常は複製がそこにおかれ、原本は収蔵庫に保管されているが、今回初めての試みとして両方が並べて展示されている。高度な技術を要するコロタイプ印刷の精度もあわせて直接確認されたい。
その他にも「黒漆螺鈿楼閣人物図扉」「花鳥人物彫扉」など、間近に見ないことにはその繊細さを知ることができない装飾品が展示されている。一つ一つじっくり時間をかけて見ていただきたいものばかりである。
<第3展示室 臨春閣保存修理工事>
展示室の奥にある「板絵十二支図額」は、聚落壁に埋め込まれていたために取り外しによる保存が簡単には叶わず、保存環境が懸案となっていたが、今回の耐震工事によって取り外されたものである。展示では原本とあわせて、褪色する前の鮮やかな色彩を伝える図、そして結果として元の場所に戻すと言う保存方法に至るまでの試行錯誤、担当者の苦悩とも取れる検討の経過がわかる資料も添えられている。
その他にも、職人による繊細な文化財修復技術がもはや芸術的な「欄間(波)」「欄間(菊)」「欄間(桐)」「浪華十詠和歌色紙」、また「蓮の茎の戸」や「竹の皮の戸」などシンプルながら繊細な建具の復元などに見入ってしまう。
各展示室の間の壁面を使って、一連の修復工事の過程を解説する「工事の現場より」も歴史的建造物ファンにはたまらない情報満載であり見逃せない。
本企画展は12月20日まで。その間、三溪園では菊花展(10/26 - 11/23)、紅葉の古建築公開(11/21 - 12/6)などの行事ある。あわせてご覧いただきたい。
<企画展 臨春閣 ー建築と美と保存の技ー>
期間:令和2(2020)年10月15日(木)ー12月20日(日)
時間:午前9時から午後5時(最終入場は午後4時30分まで)
場所:三溪記念館(三溪園内)
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