昭和32(1957)年、小田急・箱根特急にSE車3000形が登場して以来、特急ロマンスカーの利用者は増加を続けていたが、さらに昭和35(1960)年には箱根ロープウェイが全通し所謂「箱根ゴールデンコース」が形成され、箱根への観光客は増加に拍車がかかる。昭和39(1964)年には東京オリンピックが開催されることもあり、特急ロマンスカーの輸送力増強のため新造されることになったのが3100形である。
小田急の特急車両では初めて前面展望席を設けた車両で「New Super Express」略して
「NSE」という愛称が設定され、昭和38(1963)年から運行が開始された。前面展望席は好評を博したほか、最新の装備とデザインが評価され、昭和39(1964)年には鉄道友の会よりブルーリボン賞を授与されている。昭和58(1983)年以降に冷房装置を強化するなどの車両更新が行なわれたが、EXE車が投入された平成8(1996)年以降は淘汰が進められ、平成12(2000)年までに全ての車両が廃車された。
3181号は、昭和41(1966)年から運用が開始され、新宿方面先頭車として活躍したのち、平成11(1999)年に引退した車両である。
3181号が展示されている開成駅前第2公園は、開成駅東口D地区土地区画整理事業により平成12(2000)年度に整備された公園である。駅周辺地区の街づくりと活性化のシンボルとして、開成町が小田急電鉄株式会社から平成13(2001)年1月に3181号の譲渡を受け静態展示している。
開成町では展示を記念して開催したロマンスカーフェスティバル(平成14(2002)年)にあわせて愛称を募集し、応募者453名253作品の中から「ロンちゃん」に決定した。静態保存車両に愛称が付いている事例は珍しいのではないだろうか。
屋外設置後15年以上を経て老朽化が目立っていた外部の塗装について、平成30(2018)年11月26日から平成31(2019)年3月31日に行った「クラウドファンディング型ふるさと納税」で集めた寄付金を活用し、平成31(2019)年4月に全面塗り替えを行った。愛称とともにいかに愛されているかが伺えるエピソードである。
展示されている3181号は月に2回、第2・第4日曜日に内部が一般公開されている。
車両の後部連結部に接続するように据え付けられた階段を上り、靴を脱いで車両内に入る。
シートは展望席の3列を除いて全て取り払われていて、側面いっぱいに静態保存まで様子や歴代ロマンスカー車両の写真が展示されている。
前面を展望席とする関係から2階に据えられている運転席にも上がることができる。実際に運転席に座ってみるとその狭さに驚かされる。手元のだけではなく背面にまでスイッチ類が並んでいる。どれも触れて動かすこともできる。
運転席から客席フロアに戻り、「ロマンスシート」とも呼ばれた二人がけの展望席に座ると、目の前に一面に景色が広がる。まさに特等席である。
開成駅前第2公園最寄りの開成駅は、従来、小田急線が通る市区町村で唯一駅がなかったの開成町の町民が小田急電鉄への要望を重ね、昭和60(1985)年に小田急線内68番目の駅として開業した比較的新しい駅である。
その駅前の土地区画整理事業によって作られた公園に保存されている「ロンちゃん」。開成町の都市の記憶と箱根観光の歴史をまとって、地域の方に愛されながら、現役時代は見ることがなかったであろう箱根方面を今日もニッコリと見つめている。
一度、開成町名物の紫陽花の時期にでも、正面から見ると少しひょうきんにも感じられる「ロンちゃん」に癒されに行っていただきたい。
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