※記事は取材当時のものです。
葉山の海岸通りの中程、森戸海岸近くに元町と呼ばれる地域がある。明治以降御用邸が置かれたのを境に葉山が湘南を代表する別荘地となっていくなか、資生堂パーラーが開店するなど別荘族を支えた葉山の中心地であったそうだ。元町商店街の一部は今も車がすれ違うがやっとの道路にギリギリまで建物が建ち並び、別荘地時代の道幅の名残を見せる。
そんな地域からだろうか、関東大震災以降建物の延焼防止のため通り沿いをモルタルやタイル、金属など不燃材料で覆い、装飾を施した「看板建築」と呼ばれる建物が点在している。
「ヒマダコーヒー」はそんな建物の一画にオープンした。 簡素な店内だが、マスターが集めた素朴なアンティークや厨房から感じる気配は何とも居心地が良い。読書や物想いに耽けるには最適の場所だ。メニューを開くと「お閑に」の文字が飛び込んでくる。決してお喋り禁止な訳ではないが、誰もが快適に過ごせるよう、「閑」をコンセプトにしたカフェなのだ。
丁寧に時間をかけて作られるフードやドリンクは、ここでしか味わえない良質な時間へと誘う。今回はスパイスを効かせたインドコーヒーをいただいた。熱々のコーヒーを啜るとふわっと香るスパイスは、癖になる味だ。道路の交通量が多いため、車の音は絶えず店内に聞こえてくるが、不思議と気にならず自分だけの「閑」な時間を味わえる。
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